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제목北朝鮮の核・ミサイル能力高度化と日本の対応 (慶應義塾大学 西野純也)

はじめに

 本稿、北朝鮮の核・ミサイル能力の高度化が、日本の安全保障にとってどのような意味を持っているのかを、『防衛白書』などの一次史料を読み解くことで確認し、続いて抑止力構築の観点から考察をしてみたい。周知の通り、日本の対北朝鮮政策において最も重視されているのは拉致問題であるが、本稿ではもっぱら核・ミサイル問題について扱っていることに留意していただきたい。

1.深刻度増す脅威認識

 北朝鮮の核兵器およびミサイル開発の進展とその能力高度化は、冷戦終結後の1990年代以来、日本の安全保障にとって最重要課題の一つであった。しかし、日本および国際社会の努力にもかかわらず、今日に至るまで北朝鮮の核・ミサイル開発を食い止めることはできていない。この30年間に、北朝鮮は6回の核実験を実施して、水爆の開発成功を主張するに至った。また、1998年のテポドン・ミサイル発射以降、弾頭ミサイル発射は100発以上におよび(日本『防衛白書』に依拠)、北朝鮮は米国本土に届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)の保有を主張している。
2020年10月10日の朝鮮労働党創建75周年の軍事パレードには、2017年11月に発射した「火星15号」を上回る大型の新型ICBM(火星16号)が11軸22輪の新型移動式発射台(TEL)に載って登場した。北朝鮮のミサイル「火星」シリーズが液体燃料であるのに対し、潜水艦発射ミサイル(SLBM)は固体燃料が用いられている。軍事パレードでは「北極星4」という新たなSLBMを登場させた。これらミサイルは、金正恩委員長が2019年末の朝鮮労働党中央委員会第7期第5回全員会議で言及した「新たな戦略兵器」であろうが、実際にどの程度の能力があるのかはまだ未知数である。洗練されたミサイルとは相反する「大型化」が必ずしも能力の高度化を約束するわけではない。北朝鮮の場合、ミサイル「大型化」は対外的、対内的な政治的メッセージとしての意味が大きいことも考えられる。したがって、ミサイル開発の実態が不透明な北朝鮮の軍事能力を過大評価することも、また逆に過小評価することも我々は避けなければならない。
そのような中、日本の防衛当局は年々、北朝鮮の核・ミサイル能力の高度化に対する懸念を強めてきている。これまで『防衛白書』の記述によれば、北朝鮮の軍事動向は、「わが国を含む地域・国際社会の安全に対する重大かつ差し迫った脅威」と規定されてきた。それが、2016年および2017年に、北朝鮮による弾道ミサイル発射が計40発に及ぶと、2017年『防衛白書』は北朝鮮の軍事動向を「わが国を含む地域及び国際社会に対する新たな段階の脅威」であると記述して、北朝鮮の脅威が「新たな段階」に至ったことを強調した。同白書は、北朝鮮の核兵器が「小型化・弾頭化の実現に至っている可能性」を指摘した上で、運搬手段である北朝鮮の弾道ミサイル能力の向上に警鐘を鳴らした。
その後、日本の防衛当局による北朝鮮の核・ミサイル能力に対する評価と脅威認識はさらに厳しさを増している。2018年に改訂された「防衛計画の大綱」は、北朝鮮が「弾道ミサイルに搭載するための核兵器の小型化・弾頭化を既に実現しているとみられる」とした上で、このような北朝鮮の軍事動向は、「我が国の安全に対する重大かつ差し迫った脅威」であると表記したのである。
加えて、2020年『防衛白書』は、ミサイル能力向上について次の5点、(1)弾道ミサイルの長射程化、(2)飽和攻撃などのために必要な正確性、連続射撃能力及び運用能力の向上、(3)秘匿性・即時性の向上および奇襲攻撃能力の向上、(4)低高度を変則的な軌道で飛翔する弾道ミサイル開発、(5)発射形態の多様化、を指摘した。
第一の長射程化を端的に示したのは、2017年11月の「火星15」発射である。弾頭重量などによっては1万kmを超える射程となるICBM級弾道ミサイルである。長射程の弾道ミサイルを実用化するためには、大気圏外からの再突入時に発生する超高温の熱などから再突入体を防護する技術についてさらなる検証が必要だが、北朝鮮は「火星15」発射により大気圏再突入技術を獲得したと主張している。
第二の飽和攻撃に必要な正確性、連続射撃能力及び運用能力の向上に関しては、実戦配備済みのスカッド及びノドンを2014年以降、過去に例の無い地点から、早朝・深夜に、移動式発射台(TEL)を用いて、複数発を、朝鮮半島を横断する形で発射した。任意の地点から、任意のタイミングでミサイルを発射できることを示したのである。また、16年9月には、3発の弾道ミサイル(スカッドER)を同時に発射して日本の排他的経済水域(EEZ)内のほぼ同じ地点に打ち込み、17年3月には4発の弾道ミサイル(スカッドER)を同時に発射するなど、攻撃の正確性や連続射撃能力の向上を示した。
第三に、発射の兆候把握を困難にするための秘匿性や即時性、そして奇襲攻撃能力は、TELからのミサイル発射や固体燃料のSLBM発射を繰り返すことで向上を図っている。
第四の低高度を変則的な軌道で飛翔する弾道ミサイルは、19年5月、7月、8月に発射されたロシアの短距離弾道ミサイル「イスカンデル」と類似したミサイル等を指す。これにより、北朝鮮は他国のミサイル防衛網を突破することを目指していると考えられる。
第五に、発射形態の多様化は、通常よりも高い角度、高い高度まで打ち上げる、いわゆるロフテッド軌道による発射や19年5月以降に発射を繰り返している新型の短距離弾道ミサイル(3種類、固体燃料)による低空での飛翔をあげることができる。いずれもミサイル迎撃を困難にするものである。
以上のような脅威認識の高まりの中で、1990年代以降の日本の安全保障政策は、北朝鮮の核・ミサイル能力に対する防衛と抑止をより一層重視する方向へと展開してきた。

2.防衛態勢の強化と限界

振り返れば、北朝鮮の核・ミサイル開発は、冷戦後の日本の安全保障政策の方向性に決定的影響を与えた要因であった。1990年代初めの第1次北朝鮮核危機の際、同盟国・米国とともに朝鮮半島有事に備える必要性を痛感した日本政府は、1997年に日米防衛協力のための指針(ガイドライン)を1978年の制定以来はじめて改訂した。冷戦期にソ連を対象に定めた日米ガイドラインは、冷戦後に北朝鮮を主要な対象とするものへと変わったのである。そして、日米新ガイドラインの実効性を高めるために、1999年には「周辺事態法」が制定された。周辺事態法は、2016年の平和安全保障法制を定める際に、「重要影響事態法」へと改称された。このように、北朝鮮の核開発問題は1990年代以降の日本の安全保障法制を整備する重要な契機となってきたのである。
加えて、北朝鮮のミサイル開発と能力高度化により、日本は防衛・抑止態勢の強化を迫られてきた。最初の大きな契機は、1998年8月のテポドン・ミサイルの発射である。ミサイルが日本列島を飛び越えて太平洋に着弾したことに、日本政府と国民は大きな衝撃を受けた。テポドン発射を受け、日本政府は同年12月に情報収集衛星を導入することを閣議決定した。情報収集衛星は2003年から順次打ち上げを行い、運用している。
また、弾道ミサイル防衛に関する日米共同研究を実施することも1998年12月に決定された。その後、2003年12月に「弾頭ミサイル防衛システム等について」閣議決定がなされ、イージス艦から発射する迎撃ミサイルSM-3と地対空誘導弾ペトリオットPAC-3の二段構えからなる多層防衛システムを整備することとなった。2007年から実際の配備と運用が開始されている。
北朝鮮ミサイル能力の高度化を受け、日本の弾道ミサイル防衛は追加的な対応を迫られている。迎撃ミサイルSM-3を搭載したイージス艦は4隻であったが、追加取得などにより2020年度には弾道ミサイル防衛能力を備えるイージス艦は8隻に増える予定である。また、迎撃ミサイルについても、現在のSM-3ブロックⅠAよりも、迎撃可能高度、防護範囲、撃破能力、同時対応能力が優れているSM-3ブロックⅡAへの更新作業を進め、2021年より配備する予定となっている。地対空誘導弾PAC-3についても、能力のより高いSM-3MSEの配備が2019年より始まった。
このような上層におけるイージス艦搭載SM-3、下層におけるPAC-3という従来からのミサイル迎撃体制に加えて、上層と下層の中間段階にイージス・アショア(陸上配備型イージス)による迎撃システムを導入して、二段構えから三段構えに防衛体制を強化することが2017年12月に閣議決定された。それ以降、イージス・アショアを秋田県と山口県に配置するための準備が進められてきたが、日本政府は2020年6月に配備プロセスを停止する異例の決定を下した。イージス・アショアから発射する迎撃ミサイルSM-3のブースターを安全な場所に落下させることが現状では難しいことが配備停止の理由である。しかし、イージス・アショアという高額のシステムを導入しても、北朝鮮ミサイル能力が高度化したために十分な防衛態勢の構築にはならず、コストに見合わないのでは、との見方も以前から少なからずあった。
憲法の範囲内で、かつ専守防衛の方針に則って、独自の懲罰的抑止力は持たずに、もっぱら弾道ミサイル防衛に代表される拒否的抑止力の強化に努めているが日本の防衛政策、防衛態勢である。一方、北朝鮮ミサイル脅威の深刻化に伴い、より踏み込んだ防衛力の整備を求める声も強くなっている。与党・自民党の「弾道ミサイル防衛に関する検討チーム」は2017年3月に提言を出し、イージス・アショアなどの新規アセット導入の必要性と合わせて、「日本に対して誘導弾等による攻撃が行われた場合、そのような攻撃を防ぐのに止むを得ない必要最小限度の措置」として、日本独自の「敵基地反撃能力」を保有する検討を政府に求めたことがあった。
したがって、イージス・アショアの配備プロセス停止を受けて、3年前と同様の議論が出てくるのは、ある意味では当然のことであった。2020年8月に自民党の国防部会・安全保障調査会は、抑止力向上のための取り組みとして「憲法の範囲内で、国際法を遵守しつつ、専守防衛の考え方の下、相手領域内でも弾道ミサイル等を阻止する能力の保有を含めて、抑止力を向上させるための新たな取組が必要」との提言を出したのである。提言の準備過程では、「相手国を攻撃する能力を持てば、地域の緊張を高めることになる」との慎重な意見や、北朝鮮の弾道ミサイル発射に移動式発射台(TEL)が用いられるようになり目標の把握は困難であるとの指摘が出た。そのた、3年前の提言で使われた「敵基地反撃能力」という用語ではなく、「相手の領域内でも弾道ミサイル等を阻止する能力」との表現が用いられることになった。また、「攻撃的兵器を保有しないなど、自衛のために必要最小限度のものに限るとの従来からの政府方針を維持」することも提言では明記された。
その後、2020年9月の退任直前に安倍首相は、ミサイル阻止に関する安全保障政策の新たな方針を同年末までに示すとの談話を発表した。談話は、「専守防衛の考え方については、いささかの変更もありません。また、日米の基本的な役割分担を変えることもありません」と明記している。自民党の提言が、3年前の提言の流れを汲んで“日本独自”の能力獲得が必要との意見が色濃く出ているのに対し、首相の談話では、“日米”の従来通りの役割分担、すなわち打撃力、攻撃力は引き続き米国に依存するとのトーンが強くなっている。
北朝鮮に加えて中国の軍事動向によって、日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増しているのは事実であり、日本国民の安全保障問題への理解や関心は深まってきているとは言える。しかし、1990年代から北朝鮮の弾道ミサイルへの対応として議論が繰り返される「ミサイル阻止能力」(その時々で「敵基地攻撃能力」や「敵基地反撃能力」など名称は異なる)の保有に向けた政策が実現していないのは、やはり日本国内でのコンセンサスが形成されていないためである。加えて、連立政権を担う公明党も消極的姿勢を維持している。イージス・アショアの配置停止を受けて、今後の日本の防衛態勢に関する国民的議論が必要な時ではあるが、新型コロナウイルス感染症対策で現状は精一杯である。安倍首相の談話では、2020年末までにあるべき方策を示すとされたが、米国のバイデン政権が日米同盟における役割分担に関してどのような立場を示すのかが明らかになるまでは、従来の防衛態勢を維持することになるであろう。本来であれば、日米韓3カ国の安全保障協力こそ、日本にとって最も効果的かつ効率的な対北朝鮮抑止の方策であるが、日韓関係が改善しない限り、他の方策を追求せざるを得ない状況が今後も続くことになる。

3.拡大抑止を揺るがすICBM

日本が北朝鮮の核・ミサイル開発を「我が国の安全に対する重大かつ差し迫った脅威」と規定し、抑止力を強化しなければならないのは、「能力」の高度化だけが理由ではない。繰り返し日本攻撃の可能性に言及するなど北朝鮮の攻撃的な「意図」も大きな理由である。ちなみに、『防衛白書』では中国の軍事動向については「強い懸念」と表現しており、場合によっては攻撃の意図を有することを明言している北朝鮮に比べると抑制された表現となっている。
これまで北朝鮮の言動が最も攻撃的であったのは2017年の朝鮮半島情勢で米朝間の軍事的緊張が高まった時であるが、それ以前から北朝鮮は日本への核・ミサイル攻撃を示唆する威嚇を行なってきた。例えば、2013年3月31日『労働新聞』は、グアムのアンダーセン空軍基地と沖縄を挙げて、北朝鮮の精密打撃手段の打撃圏内にあるとの記事を掲載したし、翌月10日には、日本が米国による北朝鮮攻撃に参加すれば壊滅的な被害に遭うとも威嚇した。このように、北朝鮮による対日威嚇は、在日米軍基地に対する攻撃を示唆することで、日本の対米支援・協力を思いとどまらせようとしていることが特徴的である。2017年になると、こうした威嚇にはさらに拍車がかかった。5月2日『労働新聞』には、「朝鮮半島で核戦争が起きた場合、米軍の兵站基地、発進基地、出撃基地となっている日本が一番先に放射能の雲で覆われるであろう」との主張が掲載されたし、5月20 日の朝鮮中央通信は、「日本は主人である米国に追従して反共和国制裁策動に狂奔したことにより、自らわが方の打撃圏内にさらに深く入り込む結果を招いた」と、日米同盟を強く牽制したのである。
そして、北朝鮮の威嚇は一層強まり、ついには在日米軍基地以外の日本を直接攻撃対象とするとの認識を示すようになった。「今までは日本の領土にある米国の侵略的軍事対象だけが我々の戦略軍の照準鏡内に入っていたが、日本が現実を直視できず、あくまで米国に追従して我々に敵対的に出てくるなら、我々の標的は変わるしかない」(5月27日、外務省報道官談話)であるとか、「日本にある米軍の侵略基地(複数)はもとより、戦争に動員される日本のあらゆるものが粉々になりかねない」(10月2日、『労働新聞』)といった北朝鮮の言説は、朝鮮半島有事への「巻き込まれ」の懸念を日本国内で引き起こすことを狙ったものである。
繰り返しになるが、日本の安全保障にとっての課題は、かつては言葉による脅迫に過ぎなかった上記のような威嚇が、今では核・ミサイル能力の高度化によって現実の攻撃として起こりうる、ということであり、それを防ぐことは益々困難になっているという事実である。北朝鮮が日本攻撃の意図を闡明にし、実際にミサイル発射の兆候が確認できた際、日本はどう対応すべきなのかが問われているのである。
そして、もし北朝鮮の狙い通りに、日本への核・ミサイル攻撃や威嚇によって、朝鮮半島有事の際に在日米軍の使用や米軍等への後方支援を行わないよう日本に強いることができれば、戦略的状況は北朝鮮には有利になり、韓国には不利になる。例えば、朝鮮半島有事において、北朝鮮が在日米軍基地を除く日本領域への限定的かつ被害規模の小さい核攻撃を行うことで、日本の対米(および対韓)支援を終了させ、紛争を終結に導こうとするかもしれない。この場合、日本は朝鮮半島有事への「巻き込まれ」を覚悟して米軍の後方支援を行うことが想定されてはいるが、その前提となるのは、米国の拡大抑止(核の傘)に対する高い信頼性である。北朝鮮が実際に対日核攻撃を行えば、米国が対北朝鮮核報復を行うことの決意とそれを支える能力が重要となる。
しかしここで問題となるのは、たとえ日本が米国を信頼していても、北朝鮮が米国の攻撃を抑止できると判断することで、米国の対北朝鮮抑止が効かなくなる可能性である。そして、北朝鮮がそのような判断をする根拠となりうるのが、米国本土に届くICBMの開発と保有である。「米国は東京を守るために、ニューヨークやワシントンDCを犠牲にする覚悟はあるのか」という問いに対して、“北朝鮮が”疑わしいと誤った判断をしないように日米両国は注意しなければならない。もし、北朝鮮が自ら開発したICBMによって米国の核攻撃を抑止できると判断すれば、それは北東アジア地域における限定的紛争を誘発することにもなりかねない(安定-不安定仮説)。
2017年前後の日本国内では、北朝鮮が米国本土に届くICBMの開発に成功すれば、米国は北朝鮮に先制攻撃をする誘惑に駆られるか、あるいは妥協的な政策を取るのではないか、との見方があった。朝鮮半島の軍事的緊張が高まる中、トランプ政権による対北朝鮮限定的攻撃説や、米朝交渉によるICBM廃棄取引説という、「巻き込まれ」と「見捨てられ」の2つの懸念が存在していたのである。どちらの場合になっても、それは日米同盟の切り離し(デカップリング)をもたらしうる事態である。北朝鮮の核・ミサイル能力の高度化は、日本の安全保障政策の根幹である日米同盟をも揺さぶりかねない重大な脅威であり続けている。

終わりに

 2018年以降にトランプ大統領と金正恩委員長が主導した米朝関係は、バイデン政権の誕生によって終わろうとしている。2017年にピークに達した朝鮮半島の軍事的緊張は、文在寅政権の努力によって緩和され、米朝交渉が始まった。しかし、日本の安全保障にとって最も重要な北朝鮮の核・ミサイル能力の高度化を止めることはできなかったと評価せざるを得ない。むしろこの間、北朝鮮が「新たな戦略兵器」を開発したことで、日本の安全保障環境はさらに厳しいものとなった。
 バイデン政権の対北朝鮮政策がどうなるのかまだはっきりしないが、日本はこれまで通り、北朝鮮の非核化について、非核化の定義(最終目標)、ロードマップ、タイムラインを含む合意を求め続けるであろう。したがって、もしバイデン政権が北朝鮮の非核化は困難との前提に立って、脅威削減のための米朝交渉に臨むことになると、日米間のアプローチの違いが顕在化する可能性がある。そうなると、トランプ政権の時代と同様に、米国は自国の直接的脅威であるICBMへの対応を優先するのでは、との疑念を生み出しかねない。同盟を重視するバイデン政権は同盟国である日本と韓国の考えをよく聞くであろうが、それが対北朝鮮政策における日韓の葛藤を顕在化させ、バイデン政権に対する影響力行使の競争が展開されることになるかもしれない。対北朝鮮政策における足並みの乱れが北朝鮮を利してきたことを我々は30年にわたり目撃してきた。今回はそうらないよう、日米、米韓だけでなく、日米韓の政策協調が何よりも切実な時期である。


<参考文献>
戸崎洋史「北朝鮮の核問題と日本の抑止態勢――現状と課題」日本国際問題研究所『朝鮮半島情勢の総合分析と日本の安全保障』2016年3月、139-155ページ。

高橋杉雄「日本――世界で最も厳しい安全保障環境下での核抑止」秋山信将・高橋杉雄編『「核の忘却」の終わり』勁草書房、2019年、235-249ページ。

神保謙「トランプ政権と日米同盟」『外交』63号(2020年9・10月)、28-33ページ。